※この作品における人物、事件その他の設定はすべてフィクションであります

地下鉄天神駅から徒歩数分の距離に、この会社は事務所を構えている。
4年前の私ならば、こう断言するに違いない。
「お前ら、人生ナメすぎ」と。

ここで、当時を思い出してみる。
まず第一に、事務所の所在地が違った。
福岡市博多区麦野。
ギリギリ福岡市だが実態は郊外都市、という街。
そんな街のファミリータイプマンションの一室が、我らの職場だった。
これはまあ、ベンチャー系IT企業にはありがちな状況なので良い。
許容範囲だ。
ただ、1階の101号室だったため管理人室と間違えられ、電気・ガス検針の許可を求められたのにはいささか閉口した。

第二に、押し入れに人が住んでいた。
……とたんに雲行きが怪しくなったが、本当なのだから仕方がない。
押し入れの上段には布団が敷かれ、小さな棚がしつらえられており、明らかに生活の香り漂っていた。
彼が何故、押し入れに住んでいたのか。
いやむしろ、何故そんな事が許可されてしまったのか。
詳しい経緯を、私は知らない。
「なあ、お前さぁ。そんな暗くて狭いとこより、自分ちの方が絶対よくないか?」
当然の疑問をぶつけたことは、もちろんある。
だが、確か彼はこう言っていた。
「えー、だってお前さぁ、家からここまで通ってくるのダルくねぇ?」
お説ごもっとも。
だけど人として何か間違ってるだろ、それ。
だが、代表も事務所に住んでいたので強くは言えなかった。