その年の忘年会は、悲惨なものだったらしい。
なぜ「らしい」と付けているか。
理由は、これから書く話の大半が、主にSE氏と、当時のスタッフであるH田氏の証言に基づいて記されているからである。
今後、あそこまで痛ましい数多くの「伝説」を遺す社内忘年会が執り行われることは無いであろう……、と、信じたい。

あの頃は皆、若かった。
誰一人として30代がいない、いかにも「ベンチャー企業」な瑞々しさ故か、その日は皆、いささか羽目を外しすぎていた。
その瑞々しさは大学生の宴会のようになり、無茶な飲み方に繋がり……。
次々に、惨憺たる悲劇をまき散らしていった。

ちなみにここからは、私自身の記憶によるところが無いため、時系列は不明である。

●惨劇その1 【カラオケ店のトイレが……!】
H田氏の証言によれば、カラオケ店のトイレを、私が内に秘めた「波動エネルギー」まみれにしてしまったらしい。

ただ本件に関して釈明させていただけば、その原因の一端はH田氏に依る所もある事を挙げさせていただく。
元々、お酒は好きで飲む方ではあるが、ワイン以外の洋酒は苦手である。
だがこの日のカラオケでは、H田氏の発案によって「カラオケしりとり」が行われた。ルールは、前の人が入れた曲名でしりとりをしていき、歌える曲が無かったり、前の人が歌い終わるまでに入力出来なかったらウイスキーを一杯飲む、という結構過酷なシロモノであった。
昔からそうだが、私が歌えるレパートリーは偏っている。
5年くらい前までは、いわゆるヘヴィ・メタルの楽曲は少なかった。
入っていてもメタリカやメガデスくらいのもので、好きなバンド、例えばMANOWARや JUDAS PRIEST、IMPELLITTERIは無かったのである。
……もっとも入っていたからといって、それが役に立つとは思えないが。
ちなみにこのカラオケ店。
その数ヶ月後に潰れてしまったため、今でも私は「あのせいで店を潰した」と云われ続けている。

●惨劇その2 【携帯電話が七色に光った!】
この光景は、私もわずかながら記憶がある。

カラオケ店を出た時点で、皆満身創痍だった。
その中で最もダメージが大きかったのは、私と代表であった。
私がトイレで大惨事を引き起こしたように、店の外では代表が内に秘めた「波動エネルギー」を四つん這いになってぶちまけた。
ちなみに当時、代表は携帯電話を首からかけていることが多かった。

さて問題。
首にモノをぶら下げた状態で四つん這いになったら、どうなるか?
当然ソレは、重力に従い首を視点として垂直に垂れ下がることになる。
そして垂れ下がった携帯電話は、ものの見事に「波動エネルギー」の射線上に入り……。

直撃。

だが代表は、泥酔し、正常な判断が困難な中でも解決策を模索した。
おもむろに自動販売機で清涼飲料水(アクエリアスと云われている)を購入した。
そして。

清涼飲料水で、携帯電話を洗った。

瞬間、携帯電話は、着信を伝える薄幸、もとい発光ダイオードをせわしなく点滅させたのである。その様子は、携帯電話の断末魔とも思われた。
が、周囲は爆笑の渦に包まれた。

ちなみにこの携帯電話、翌日きちんと動いたため、代表はしばらく使い続けていたようである。

●惨劇その3 【行方不明】
本件においては、まったく記憶がない。

どうしたことか私は皆とはぐれてしまい、行方不明になった、らしい。
完全にギブアップした代表を除いて、忘年会の参加者は方々を探し歩いてくれたそうだ。
その際、誰かが私の携帯電話に
「どこにいるのか?」
「何か目印になるモノはないか?」
と、たずねてきたという。

その問いかけに、何を思ったのか私は自動販売機に書いてあった製造番号だか機体番号だかを答えたそうである。
我ながら、何を考えていたのかまったくわからない。
っていうか、自動販売機の番号って何?
後で話を聞かされて、自分が一番信じられなかった。
元々方向音痴のきらいははあり、道案内は苦手とするところであるが……。
我ながら、いくら何でもこれはあんまりだと思う。

ちなみに気がついたとき、私は自分の車の中に居た。
二日酔いの頭痛もなく、なんだか妙にスッキリ晴れ晴れとした気持ちで。
……思いっきり自分の車の右前輪に、波動エネルギー痕が残っていたが。

 

この3つの「伝説」は、何かしらの宴会をやるたび、未だに引きずり出される(主に私と代表の)過去の恥部である。
だが、これ以降。
というか後にも先にも、私は記憶を失ったり行方不明になったり、そんな他人様に迷惑をかけるような飲み方をした覚えはない。
いや、まあ、覚えてないだけかもしれないが、つまりはそういうことである。

……いやほんと、あの時はみんな本っ当にゴメン!